プロフェッショナル仕事の流儀〜岡田武史監督のチームマネジメント

先日夜、なかなか寝付けなくてボーっとザッピングしていたテレビで、「プロフェッショナル仕事の流儀」が映っているのをみつけました。


放映内容は、今シーズンから中国プロリーグの杭州緑城の監督に就任した岡田武史さんでした。


サッカーが好きなので、何気なしにみていましたが、マネジメントの視点で見ていると、とても興味深かったため開発のプロジェクトマネジメントとからめて感想を書きたいと思います。


岡田武史監督は、現役時代も日本代表としてプレーする選手でしたが、選手としても理論派だったため、自分の納得がいかない指導や指示に対して、コーチなどに反論するような方でした。


やがて現役を引退し、ドイツでの指導者生活などを経て、日本のクラブのコーチに就任します。実力を買われ、日本代表のコーチに推薦されたのち、代表監督への就任。その後、初出場したフランスW杯でのグループリーグ全敗でいったん代表監督を退任します。
その後は、JリーグでJ2だったコンサドーレ札幌をJ1に昇格させたり、横浜Fマリノスをリーグ2連覇に導きました。

その当時、岡田監督のチームマネジメントは、選手に徹底した戦術理解を要求するものでした。

選手たちは、監督の考えた戦術通りの動きを求められ、またそれに応える選手が残っていきました。理論的な正しさで、チームを昇格や優勝という結果を残してきましたが、監督自身は次のような疑問を感じるようになっていました。

「選手たちは、自分の思いどおりに動いてくれる。だが、思った以上のプレーをすることがない。
世界と戦うためには、チームが「神経が通い合う、ひとつの生命体」のように、自分で意思を持ち、責任を持って自分で判断できるようにならなければならない。」


さまざまな人に出会い、話をして、書籍も読み漁り、たどりついたのが、
「選手自身に考えさせ、判断させる」チームマネジメントでした。


その結果は、みなさんご存知のとおり、2010年の南アフリカW杯での日本代表の活躍に表れました。監督が指示したシステムを、試合の状況から判断し、選手たち自らがシステム変更を要求できるようになっていました。



現在就任している中国プロリーグの杭州緑城でも、そのチームマネジメントの姿勢は同じです。


就任当時、杭州緑城の選手たちは、生活から練習内容、試合まですべてコーチや監督に監視・指示されていました。
そのため、選手たちのほとんどが、指示されることはやるが、自分たちで考えて行動することがあまりない状況でした。

これは、オフショア開発でも似たような状況があるのではないでしょうか。

岡田監督は、この状況を一新すべく、選手・コーチにいたるまで、すべて自分自身で考え、自身の責任で行動するように手を打っていきます。


さまざまなアプローチがあったのですが、一貫して言えるのは、

「答えを教えない。自分で考えて見つけさせる。」
ことでした。


練習では、最初から答えを示さず、何のための練習なのか、選手が考えて気付かせるものを準備していました。

岡田監督は毎日、選手が自ら答えを見つけ出せる(気付ける)ようなオリジナルな練習方法を考え、実践していました。

例えば、通常練習のあとに、「自分が23才以下だと思うヤツは残ってシュート練習をやるぞ」と言って、残るかどうかを選手に判断させるなどです。


選手の自主性を伸ばせば、うまくチームが成長するかのように見えましたが、杭州緑城というチームは20代前半の選手が多い、言わば経験の少ない選手ばかりのチームだったため、練習試合やリーグ戦で負けが込んでくると、選手が自信喪失しかけることがありました。

それでも答えを示さないのか、どのようにしてチームを導くのか、気になりましたが、悩んだ末に岡田監督が出した結論は、

「答えを教える」

でした。

岡田監督本人も、「普段は絶対こうはしないんだけど。。」と、悔しそうな表情を浮かべていましたが、プロである以上、結果も求められるため、苦渋の選択だったように思います。


これは、実際に私もオフショア開発をしていて、似たような状況に遭遇することが多々あります。

まだプロジェクトに余裕のある時期は、じっくり現地のメンバが答えを見つけ出せるまで待つアプローチをとるようにしているのですが、リリース前や切羽詰まった状況だと、答えを示し「これのとおりやってくれ」、と指示してしまいます。



経験値の穴をどう埋めるのか?



若いメンバで構成されることの多いオフショア開発だと、ひとつの大きな課題と言えます。


オフショア開発において、日本側で現地メンバの行動や成果物を逐一チェックしたり、行動を指示するのは限界があり、不可能だと思っています。
そうするくらいだったら、日本人だけで開発をした方が効率良く成果を出せるとも思っています。


オフショア開発で、日本側の負荷がほどほどの状態で、質のよい成果を出すためには、「現地メンバが自分で考え、自分で判断できる」状態にすることが、目指すべき姿ではないでしょうか。


サッカーも開発も、マネジメント対象は人間であり、いかに最高のパフォーマンスを発揮してもらうか?という意味では、目指す方向性は同じなのかもしれません。

そんなことを思いながら、テレビを見ていました。



あと、もうひとつ気になったフレーズを記しておきます。

岡田監督が、チームの勝敗を分ける要因について語った内容が次のようなことでした。

「自分の役割を90分やり通さなければならないのに、60分、70分を過ぎたあたりからの、一瞬の隙、一瞬の「まぁいいか」という怠慢、マークミス、その一瞬の油断が勝敗を分ける」

これも、プロジェクトの遂行においても同じかもしれません。

一瞬のまぁいいか、が大きな問題やプロジェクトの失敗に繋がっていることがあるように思います。